6月11日、インド・バンガロール。
「世界における日本のプレゼンスを高めたい」
そう話すのは25歳から海外留学支援事業を始め、他にもSNS開発会社など数社の起業を経て、現在は日本の企業に対してグローバル人材育成のための海外研修事業を行っている、まさにグローバルに活躍する豊田圭一さん。
海外で日本が台頭するために足りないものは何なのか、どんな思いで今の事業を始めたのか、グローバルに活躍するとはどういうことなのか。
バンガロールにある豊田さんが経営する英語学校、スパイスアップアカデミーに突撃してお話を伺ってきました。
豊田圭一さんプロフィール
1969年埼玉県生まれ。内閣府認証NPO法人 留学協会(副理事長)、早稲田大学トランスナショナルHRM研究所(招聘研究員)、異文化経営学会 所属。
幼少時の5年間 をアルゼンチンで過ごす。92年に上智大学経済学部を卒業後、清水建設株式会社に入社。約3年の勤務後、海外教育コンサルティング事業で起業。個人を対象にした留学コンサルティングのほか、大手英会話スクールの留学事業立ち上げ、企業派遣留学のサポートなどに関わる。また、国際通信事業やSNS開発事業でも企業した。2005~07年は厚生労働省委託事業(委員会)の委員も務めた。現在、アジア新興国での海外研修事業に従事するほか、インドのバンガロールで英語学校を運営している。
主な著書に『とにかくすぐやる人の考え方・仕事のやり方』、『自分がいなくてもまわるチームをつくろう!』、『何でもすぐ決めすぐ動く、すぐやるチームのつくり方』、『引きずらない人は知っている、打たれ強くなる思考術』などがある。
グローバルパーソンを輩出するミッショングローバル研修
−本日はよろしくお願いします。まず現在、豊田さんがやられているメイン事業を教えて下さい。
「日本企業のビジネスパーソンをグローバル環境でも活躍できる人に育成する、というのが最も力を注いでいる事業です。
その1つとしてあるのがミッショングローバル研修です。
これは、新しいスタイルの海外ビジネス体験型の教育研修プログラムで、”知り合いもいない” “言葉も通じない”異国の地で、複数のミッション(課題、指令)を同時並行で与えられ、それらを限られた時間の中で完了させなければいけないという実践的なビジネス研修です。
これまでドメスティックな環境で働いてきた20代から30代のビジネスパーソンたちの「海外に出たくありません」というマインドを「海外でやってみたい!」というものに変えていきます。
グローバル環境で活躍するために大事なものはスキルでも知識でもありません。
大切なのは異国の地、自分しかいない、なんとかするしかないという状況でなんとかやってのけたという「経験値」です。
なので、ミッショングローバル研修の内容もそこに重きをおいて構成されていて、一週間だけでも課題をバンバン与えられる、過酷な研修になっているんです。」
世界における日本のプレゼンスを高めたい
−以前やられていた留学支援事業から一転、なぜこの海外研修事業を行おうと思ったのですか?
「僕自身のやりたいこと、ミッションは『世界における日本のプレゼンスを高める』ことなんです。
それは過去20年間留学のサポートをしていく中で感じた、日本のプレゼンスが至るところで圧倒的に低下していることに対する問題意識からでした。
20年前はアメリカでもイギリスでも欧米の大学の中には、日本人が他の人種よりも圧倒的に多かったんですね。アメリカの大学とかそれぞれの大学に日本担当者がいて、彼らが僕に「うちにもっと日本人の生徒を送って下さい。」と言ってくるわけです。
ところが徐々に日本人の生徒が少なくなって、中国人やロシア人、ベトナム人など他国の生徒が多くなるにつれて、今まで日本に来ていた担当者が日本にあまり足を運ばなくなったんです。
「Mr. Toyoda何月何日空いてる?バンコクで留学フェアがある帰りに日本に寄ります。」と言われて、僕が「その日は予定があってダメだ」と返すと、「じゃあネクスト・タイム!」ってなるわけです。
つまり、メインじゃないです。日本はパッシングなわけです。
で、そのうちダイレクトに日本を飛ばされるようになったんです。
この時から日本のプレゼンスが低下していることを自分の業界でもすごく感じたし、どこに行ってもPanasonicだSONYだとなっていったのが、どこに行ってもサムソンだLGだと変わってきたわけです。
でも、やはり僕は日本人なのでこの日本の憂うべき状態をなんとか変えていかないといけないと思いました。
じゃあどうすればいいか?
世界における日本のプレゼンスを高めるには日本の企業を強くするのがいい!そして、企業を強くするには、働く人たちをもっとグローバルで活躍できる人たちにしよう!と思いました。
日本の企業はせっかくいいものを持っている。お金も持っている。そして、明らかに日本の市場はシュリンクしている一方、新興マーケットはどんどん伸びている。
じゃあやるなら今しかない!と思い、世界で活躍できる人を育成する海外研修を始めました。」
グローバル人材とは『どこでも仕事の成果を出せる人』
−豊田さんが考えるグローバルパーソンとはどんな人ですか?
「まず日本で仕事ができるのが前提で、その日本でやっていることをどこに行っても平然と変わらず実践できる人。どこでも普通に仕事で成果をあげられる人じゃないでしょうか。
これ以上でもこれ以下でもないと思っています。
例えば日本人に対しては普通に話せるのに、相手が変わると怖気づいてしまう人はグローバルパーソンではありません。
また、どんなコンピテンシーが必要とか、スキルが必要とかも関係ないというか、それは人それぞれなので一概に言えません。
英語力もMBAも「鬼に金棒」の「金棒」なんです。MBAを取得してすごくなった人はいません。元々仕事ができる人(鬼)が、MBAをゲットしてさらに力を付けるということです。
語学力も一緒で、英語だけ出来て話す内容がなければ意味がない。これがあるからグローバルというわけではありません。」
海外経験から何を得るのか
−過去20年間以上、海外経験に関する事業に関わってきて、留学や海外インターン、旅行、スタディツアーなど海外経験は昔と今で流行はどう移り変わっていますか?
「時代とともに手っ取り早くスキル、知識を付けたいというニーズが多くなっているので、それとともに内容が矮小化していると思います。
つまり、いかに短期間でそのスキルをゲットできるかというものです。
僕は留学や海外インターンシップなどの海外経験をした人によく、「自分の海外経験で得たものの中で、語学力やなんらかの知識・スキルが占める割合はどれくらいか?」という質問をするんですが、多くの人がその割合を5〜30%と答えるんですね。
じゃあ残りの70〜80%はなんなのか?というと、自分でなんとかするしかなかったという経験、そこから付いた自信、あるいは対応力だと言うんですね。で、実際本当に役立つのはこの70〜80%の方なんです。
ただ、今のトレンドとしては5〜30%の知識、スキルの部分をいかに短期間でゲットするかというものです。これがいいか悪いかは別として、言いたいのは、やっぱりそんな手っ取り早くなんて力はつかないよということです。
人によってはただ単に就活のネタのようなものになってしまって響かないし、知識・スキルの部分だけを求めてしまうとどこか中途半端なものになってしまいます。
昔と今の違いとしてはこういう傾向があると思います。」
大人の言うことを素直に信じるな。
−では、最後に日本の学生に何かメッセージをお願い致します
「『大人を素直に信じるな!』です。
大人はそれっぽいことを言いますが、必ずしも大人がなんでも知っているわけじゃありません。
僕を含めて、誰だって身近なことしか知りませんし、自分の経験からアドバイスをするだけです。
全員がそうじゃないことは分かっていますが、学生の周りにいる”大人”というのは「社会を知らない先生」や「20〜30年前の自分の経験からそれっぽいことを言ってアドバイスする親」そして、「自分と同じように何も経験のない、でもそれっぽいことをいう2つ上の先輩」ばかりです。
みんないい人なんだけれど、彼らのアドバイスが正しいかは分からない。だからそういう大人のアドバイスなんて聞かなくていいと思います。
例えば、僕は起業家になりたいという人から起業について相談を受けることがありますが、そういう人にいつもこう言っています。
「僕に相談している時点で起業の半分は失敗しているかもしれないよ」と。
起業家というのは、誰になんと言われようと何としてもやる!やりたいことがあるからやる!という人だと思うんです。それなのに、最初から「このビジネスプラン、どう思いますか?」なんて、アドバイスが欲しいとか言っている時点で起業家じゃないんじゃないかなと思っています。
そして、これと全く同じアドバイスを学生の皆さんにしたいです。
家族になんて言われようと、先輩になんて言われようと今これがやりたいんだということを大事にして下さい。」
インタビューを終えて:日本の海外進出は圧倒的に出遅れている
豊田さんが憂れいている日本のプレゼンス低下は、この旅で僕も身を持って感じていることです。
インドの前に訪れたケニア、タンザニアなどの東アフリカでは圧倒的に中国・インド企業が台頭していて日本企業は完全に出遅れている状況でした。お話を伺ったインドのバンガロールもそう。
国内の市場が縮小しているにも関わらず日本企業の海外進出は出遅れている。そしてドメスティックな人間が多い。まさに矛盾です。
これを解決していくには、
もっと一人一人が自分には関係ない他人事と捉えないで、自分が住んでいる国で起きている1つの問題としてきちんと問題意識を抱えて考えていく必要がある。
そしてその考える1つのきっかけとして海外経験はある意味必須なのかと個人的には思います。
豊田さん今回はありがとうございました!